長崎地方裁判所平戸支部 事件番号不詳 判決
右暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件について当裁判所は検察官原田友一関与審理を遂げ左の如く判決する。
主文
被告人赤井政一、同山口光雄、同城本武芳、同古舘信一、同古川勘次を夫々懲役三月に、被告人宮崎熊一を罰金二千円に処する。
但し被告人赤井政一、同山口光雄、同城本武芳、同古舘信一、同古川勘次に対する右刑は本裁判確定の日より二年間その刑の執行を猶予する。
被告人宮崎熊一に於て右罰金不完納のときは金五十円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人山口誠一は無罪
理由
被告人等はいずれも長崎県北松浦郡鹿町町深江免に本店を有する麓〓吉経営の麓鉱業所三岳深江炭鉱の従業者で、同炭鉱従業者の一部を以つて組織する三岳深江労働組合の組合員である。右炭鉱は昭和二十二年度は四百九万円、同二十三年度は八百三十七万円の欠損を出したために従業者に対する労賃の支払も遅延勝となり、昭和二十四年四月二十六日現在に於て同年二月分は給与総額の六七パーセント、同年三月分は六八パーセントが未払となり、同年四月分はその一部分を支払うに過ぎない状態となつた。此の間炭鉱側と右労働組合との間に数次に亙つて賃金支払に関する団体交渉を重ねて来たが、昭和二十四年三月頃より団体交渉も兎角円滑を欠き、労組に於ては右炭鉱側に誠意なしとして賃金の即時支払又は経理の公開を迫り、炭鉱側に於ては経理の公開を迫るは労組に於て経営権侵奪の企図を有するものであり、又其の頃とみに同炭鉱に於ける石炭の生産が低下した事実は労組に於て右の目的を達する手段として、石炭の増産に協力せず、故意に生産を阻害しておるところから生じた結果であるとなし、組合側の反省を求めるところがあつたが結局炭鉱側に於て其の経営権を守り、組合側の反省を求めるためと称して同年四月二十七日より作業場閉鎖の争議行為を為すに至つた。炭鉱側の右争議行為はその後福岡石炭局の勧告によつて同年六月六日何等の理由も開示せずこれを停止して作業場を再開することとしたが、その数日後である同月九日炭鉱側は右労組幹部に反省の色なしとして組合長古川德次、書記長小川美好、執行委員山川政雄、宮原政春、三好努、組合員山口光夫、浜田昭、野田〓等八名の幹部に対して諭示解雇を申渡した。茲に於て右労組に於ては同月十二日を期して長い間の賃金の遅払及作業場閉鎖によつて極度の窮乏に陷つた組合員の生活を回復するため賃金の内払を請求し、又幹部の解雇取消を求める目的の下に炭鉱側と団体交渉をなすべく企て、先づ炭鉱側より団体交渉に応ずる旨の確約をとる目的を以つて右日午前九時半頃より鹿町町所在の右組合事務所より江迎町所在の右炭鉱業事務所迄右組合員約二百名を以つて示威行進をなしたが、右炭鉱事務所には炭鉱側の責任者不在であつたため同日午前十時頃右組合員約三、四十名を以つて同事務所より更に江迎町西岩崎所在の同炭鉱総務課長田口己義及工作課長山口良水方迄行進して、山口良水より同日午後一時より賃金支払問題に関しての団体交渉に応ずる旨の確約を得た。仍つて同日午後二時頃より労組幹部である古川德次、松尾時夫、山川美好、山川政雄、志田一、宮原政春、田中九十郞は右労組代表者として又炭鉱側は友広牧治、田口己義、山口良水、諸岡啓、国崎二郞を其の代表者として同炭鉱鹿町職員倶楽部河水寮広間に於て団体交渉を開始したところその冒頭に於て炭鉱側はさきに解雇を申渡した前記古川德次、山川美好、山川政雄、宮原政春等を含む相手方代表者とは団体交渉に応じ難しと称してその人選変更方を要求したが、労組代表者等に於てこれに応じなかつた事より炭鉱側代表者等は交渉を拒否して同所を引揚げるべく同クラブの玄関より出ようとしたが、その際同玄関附近に居た右労組靑年行動隊員数名の合図に応じて組合員二、三十名が同クラブに向つて押寄せて来つつあるのを見て身の危険を慮つて一時同クラブ三号室(六畳敷日本間)に退避したところ、その後組合員は漸次その数を増加して二、三百名に達してクラブの周囲をとりかこみ更にその一部は内部廊下に侵入して種々暴言を吐き或は壁又は板壁等を叩いて喧騷した。その後江迎労政事務所嘱託佐竹直志の斡旋の結果同日午後六時頃炭鉱側の前記代表者等も漸く同室を出て同クラブの広間に於て組合代表者等と団体交渉を開始し、同日午後九時二十分頃賃金の支払並解雇取消等に関する組合側要求事項を承認するに至つたものである。
第一、同日午前十時頃右組合員が前記田口、山口方に於て団体交渉開始の承認を求むるに際して組合員三、四十名は隣接して在る両家の周囲に蝟集して約三十分間に渉つて喧騷した際に
(一) 被告人赤井政一は田口己義方外庭に於て「田口を叩き殺せ」「踏殺せ」等放言し
(二) 被告人宮崎熊一は山口良水の妻山口フジエ当時二十三年が組合員の挙動を見て「野蛮ね」とつぶやいた事を聞知して同家湯殿に於て洗濯中のフジエに対して「山口の嬶顔見せろ、この木刀が目にかからぬか、野蛮人だから何するかわからんぞ」と放言して且右木刀を以つて同所の窓の敷居を小突いて示し
同人等の身体に危害を加えることのある如き勢をなして多衆の威力を示して脅迫し
第二、同日午後二時過頃炭鉱側代表者五名が前示職員クラブ三号室に退避した頃より同日午後六時頃迄の間同クラブ内外に蝟集した前記組合員が前記の如く喧騷した際に
(一) 被告人赤井政一は三号室前廊下に於て「田口出て来い、出て来ないなら押殺すぞ」「叩き殺すぞ」「お前を殺しても十五年も刑務所にかまえばいいのだ」等繰返し放言し
(二) 同山口光雄は三号室前廊下に於てメガーホンを以て三号室に向つて「早く団体交渉を持て、何時迄待たせるか長く出て来ないなら引張り出すぞ」「今日は生命を捨てて来たのだから生命はないものと思つて首を洗つて待て」「冷い体にして帰すぞ」等繰返し放言し
(三) 同古館信一同古川勘次等は三号室前廊下で「出て来い、出て来ないなら引ずり出すぞ」「叩くぞ」等繰返し放言し
(四) 同城本武芳は三号室前廊下で「早く交渉を開け、要求を容れる迄はお前達は絶対に帰さぬぞ、会社の餓鬼共」「会社の奴早く出て来い、小便にも行かせるな」等繰返し放言し
夫々炭鉱の代表者等に対して同人等の身体に危害を加えることのある如き勢をなして多衆の威力を示して脅迫したものである。
(証拠説明省略)
法律
一、被告人赤井政一の判示第一、第二の各(一)の所為に対しては暴力行為等処罰に関する法律第一条(刑法第二二二条第一項刑法第四五条第四七条第二五条)
一、被告人宮崎熊一、同山口光雄、同古舘信一、同古川勘次、同城本武芳の判示各所為に対しては暴力行為等処罰に関する法律第一条(刑法第二二二条第一項)
一、被告人山口光雄、同古舘信一、同古川勘次、同城本武芳に対しては刑法第二五条、被告人宮崎熊一に対しては刑法第十八條、罰金等臨時措置法第三条第一項
を各適用する。
弁護人副島武之助は被告人等の本件所為は労働組合の争議権の範囲に属しておるから無罪であると主張するのであるが判示の如く被告人等の各所為は常軌を逸して到底正当なものとは認め難いところであるから弁護人の主張は採用し難い。
被告人山口誠一に対する公訴事実は被告人山口誠一は橋村敏満と共に第三号室外庭に於て交々窓外の板壁を叩き乍ら「早く出て交渉を開け出て来ねば只では帰さぬぞ」「冷くして帰すぞ」「堤の中に蹴込むぞ」「月夜ばかりはない、闇夜もあるぞ」「幹部の首切つたらお前達の首も飛ぶぞ」等放言し多衆の威力を示して脅迫したと謂うにあるところその証明十分でないから刑事訴訟法第三百三十六条を適用して無罪の言渡をする。
仍て主文の如く判決する。
(裁判官 石田憲次)